IDEスクエア

海外研究員レポート

アメリカにおける貧困と所得不平等について

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050080

2005年11月

2005年8月29日、ハリケーンカトリーナはルイジアナ州に上陸し、ルイジアナ州ニューオリンズを始めとするアメリカ南部一体に甚大な被害をもたらした。カトリーナが直撃した南部地域一体は低所得者が多く住む地域であり、被災者の多くが車を持っていないため逃げ遅れた低所得者であった。カトリーナの被害は連日に渡って世界中で報道され、アメリカの貧困層の存在が浮き彫りにされた。

このような状況の下、8月末日にアメリカ国勢調査局より、所得、貧困、医療保険についてのレポート(Income, Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States: 2004)が発表された。今回はこのレポートとこのレポートに対する米国内の反応を紹介したい。

レポートでは、2004年度のアメリカの貧困率は12.7%と、前年度の12.5%から上昇していることが指摘されている。人数で見ると、貧困者の数は3700万人と前年度から 110万人増加し ている。人種別に貧困率を見ると、黒人とヒスパニックの貧困率はそれぞれ24.7%と21.9%と変わらず、一方白人の貧困率は8.6%と2003 年度から0.4%上昇している。人種別で見た中で唯一貧困率を減らしているのはアジア系であり、2004年度の貧困率は11.8%と前年度から2%もの減少となっている。なお「貧困層」の定義は、生活必需品を購入できるかどうかにより決められる。「貧困層」を定める基準は、世帯の人数や世帯構成員の年齢などにもよるので、明確な金額としての基準を示すことは出来ない。レポートでは一例として、5人家族の収入が23,108ドル未満の場合を貧困層とみなすとしている。また医療保険未加入率は15.7% で、前年から80万人の増加となっている。人種別に医療保険未加入率を見ると、白人0.2%増、黒人およびヒスパニック0.7%増、アジア人1.1%増、とすべての人種において増加していることがわかる。

州別データによれば、貧困率上位5位に、ミシシッピー州、アーカンソー州、ニューメキシコ州、ルイジアナ州、コロンビア特別区があげられ、この内の2州(ミシシッピー州とルイジアナ州)にカトリーナが直撃した。因みに私が在住するインディアナ州は貧困率の下位から19番目に位置している。また社会保険未加入率上位5州は、テキサス州、ニューメキシコ州、オクラホマ州、ネバダ州、ルイジアナ州となっている。インディアナ州は、29番目に位置している。

所得データによると、中間層の所得は5年間ほとんど変化なく、この停滞はこれまでの記録された所得データの中で最も長い停滞であることが指摘されている。またアメリカの所得のうち約50%は上位20%の富裕層へ向かっており、2004年度に所得が上昇した世帯は、富裕層のわずか5%であったことが追加的データで示されている。これらのデータから、アメリカでは貧困が増加し、所得の格差が広がっているように見受けられる。

このレポートの発表を受け、ワシントンポストは、経済が4年続けて成長しているにもかかわらず、貧困層が増えていることを指摘している。この原因として、経済学者は貿易による労働者賃金の低下などを指摘する一方、ブッシュ政権は、2004年終盤から労働市場は改善しており、貧困は改善の傾向にあるとの見解を示した。また国政調査結果は、減税の効果を反映していないとの指摘もなされた。この指摘に対して、民主党は、減税は高所得者層に行われており、貧困の改善には有効ではなかったと主張している。

またその他の意見として、国勢調査では、株による収益は考慮に入れておらず、もし考慮に入れた場合、貧困層と富裕層の格差は更に広がるとの考えが示されている。

アメリカでは、所得の不平等と貧困は社会的、経済的病巣であり、改善すべき課題だとの声が上がっているが(ニューヨークタイムズ)、政府は、1997年以来変わっていない1時間5.15ドルの最低賃金を引き上げることを拒否し、富裕層にのみ有利な減税処置を引き続き行うという富裕層よりの対応を示した。

アメリカにおける貧困問題は、医療保険問題と問題の根源は同一であり、今後解決すべき重要な課題であるといえるだろう。