アジア経済研究所について

アジ研いま何してる?(活動紹介)

広報担当のネタ探しの旅:アジ研いま何してる?(アジいま)

「アジいま」は、アジア経済研究所の広報担当者が、研究者を中心とする研究所職員を10分間インタビューし、「いま」取り組んでいることをわかりやすくお伝えする連載記事です。アジ研のいまと、新興国・途上国研究のいまを、のぞいてみませんか?

「松本さん、いま何してますか?」(2024年5月10日)

松本 はる香/地域研究センター 東アジア研究グループ

松本 はる香/地域研究センター 東アジア研究グループ

いまは、習近平政権下の中国の外交政策、特に米中関係と台湾問題に焦点を当てて研究しています。その成果のひとつとして、北東アジア地域のバイラテラルな関係から中国の対外関係を分析した『〈米中新冷戦〉と中国外交――北東アジアのパワーポリティクス』(編著)を出版しました。直近では、空間経済学や経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を専門とするアジア経済研究所の研究者たちと共同研究を実施し、中国と台湾の関係が緊張するなかで、いわゆる台湾有事が起きた場合の世界経済に与える影響について、2024年1月の台湾総統選挙の結果を踏まえつつ分析しました。これに関しては、ウェブマガジン『IDEスクエア』の特集で「『台湾リスク』と世界経済」の連載記事として公開しています。さまざまな地域や分野の研究者との共同研究は非常に面白く、知的好奇心を大いに刺激してくれるものです。このような多様な専門家が集う知のコラボレーションは、本研究所において研究を続ける醍醐味のひとつと言えます。

また、これまで東アジアの冷戦史、特に、1950年代の台湾海峡危機について長年研究してきました。科研費課題(研究代表者研究分担者)でもこのテーマに関する研究を進め、アメリカや中国、台湾でアーカイブと呼ばれる歴史史料館で外交文書を読んで分析する、地道な作業を少しずつ続けてきました。今度、冷戦時代の台湾海峡危機をめぐる米台関係について外交史的に跡づける本を日本語で出版する準備を進めています。

2024年5月からは、台湾の国立政治大学台湾史研究所で在外研究を1年間行います。様々な史料を通じて歴史を俯瞰的に振り返りながら、台湾海峡をめぐる現在進行形の国際関係についても考察をさらに深めていきたいと思っています。

*******

米中・中台関係は国際社会で最も重要なイシューの一つですが、常に揺れ動いているため正確な現状の理解は難しいものです。ただその時々の動きに注目するだけでなく、歴史的文脈を踏まえた松本さんの冷静な分析は、この複雑な問題を理解する上で非常に重要な手がかりとなっています。

(取材・構成:金信遇、2024年4月12日)
(写真:青山由紀子)

「荒井さん、いま何してますか?」(2024年1月24日)

荒井 悦代/地域研究センター 南アジア研究グループ

荒井 悦代/地域研究センター 南アジア研究グループ

スリランカの研究をしています。スリランカでは、2022年の反政府運動で権力を失うまで、ラージャパクサ―一族が大統領や首相、財務大臣といった要職を占めていました。一族政治は途上国でよくみられますが、前任者から権力を引き継いだのではなく、同時に、そして、複数の重要なポストを一族で分け合っていたという点が特徴的です。スリランカは、教育や医療を無償で提供し、1931年には普通選挙を実施するなど、福祉国家や民主主義国家として高く評価されていました。しかし、気づかないうちに権威主義的な国になってしまいました。どこでどう変わったのか、シンハラナショナリズムや法律制度、財政など、さまざまな角度からスリランカの状況を分析する共同研究「ラージャパクサ一族政治の成り立ち」を進めており、2024年度には日本語の本として研究成果を出版する予定です。

2022年の反政府運動の背景には、外貨不足による燃料不足や激しいインフレなど、経済的な問題が大きく関係しています。スリランカの人々の我慢の限界はどこにあるのか、スリランカの経済を安定させ、国民の不満を抑えるにはどうすればいいのか、その道しるべを見つけることが私の大きな研究目標です。

さらに、スリランカに加え、モルディブの状況にも注目しています。モルディブやスリランカの対中関係は、一帯一路などの影響で、日本国内でも関心が高いと思います。また、スリランカとモルディブの国内では、反中国路線、反インド路線というのが選挙の争点になることが多いです。このような側面も引き続き観察していきます。

*******

グローバルサウスという「括り」に注目が集まるなか、各地域や国にはそれぞれの政治と社会のダイナミズムが存在するということがわかりました。スリランカは小さな国ですが、そこに虫眼鏡を当てることで、新しい国際秩序が見えてくる気がします。

(取材・構成:金信遇、2024年1月12日)